in a beeline


 ――こちらラチェット。バンブルビー、聞こえるか

 いつもどおりウィトウィッキー家の離れで身を縮ませていたバンブルビーは、突然の仲間からの通信に驚いて夜中 であるにも関わらずライトを明滅させた。クラクションが鳴らなくてよかった。あまりうるさくするとサムに怒られ てしまうから。

 ――こちらバンブルビー。聞こえてるよ。どうぞ
 ――…良いニュースを持ってきた。聞きたいか

 ラチェットの試すような声音にバンブルビーはわざとらしくカーオーディオを鳴らして応えた。

 ――”グッドニュース!””聞きたくないわけないね”
 ――よろしい。では急いで基地まで来ること
 ――え?今教えてくれるんじゃないの?

 てっきり通信で教えてくれるものだと思ったバンブルビーは、ラチェットの返答に素っ頓狂な声を出して抗議した。
良いニュースならいち早く教えてくれるのが筋だろう。なんでイジワルするのか。

 ――まあ、逃げやしないからな。いいか、急いでくるんだぞ
 ――ちょ、ちょっとラチェット!
 ――…ラチェット?誰と話してるの?

 通信の向こう側から聞こえてくる高い声に、バンブルビーは”耳”を疑った。それは明らかに女性のものであるが、 人間ではない。自分たちと同じ機械生命体の女性型のものだ。それも、自分が一番良く知っている。

 ――おっと、もうお喋りは終わりだ。じゃあ後で…

 だめじゃないか、という声が回線を切る間際に聞こえて、バンブルビーは思い切りカーオーディオのボ リュームを上げた。

 ――”オレが恋したお嬢さん””いますぐ会いに””走って行くよ”

 !ずっと会いたかった女の子!
 バンブルビーは抑えきれない感情をぶちまけるようにエンジンをスタートさせ、爆音を響かせて家を出た。


 基地へと急ぐバンブルビーは、セイバートロン星で早くに知り合ったのことを思い出していた。同じ時期 に入隊して一緒に学ぶことの多かった女性型オートボットのは、バンブルビーにとってかけがえの無い存在 だった。いつからそうなったのかハッキリとは覚えていないけれど、辛いときも嬉しいときも常に一緒だった。
 試験に受かったときも、教官にどやされた時も、暗闇に震えた時も……数え切れないほどの思い出の多くを彼女と作っ た。寄り添うだけだった二人は、いつしか手を繋ぎ、肩を寄せ合い、影が一つになるまでになった。機械だからサムや ミカエラたちのような暖かさや柔らかさはないが、と一緒にいるだけでバンブルビーはスパークが満たされ るような気がしていた。

 離れても絶対にまた会えると誓いあった遠い昔のことを、バンブルビーは昨日のことのように思い出した。あれから 大きな戦いがあり、かけがえの無い出会いと別れがあった。バンブルビーは人間よろしくオイルが涙のように放出され るのを抑えながら、のことを思った。彼女は変わっていないだろうか?今でも明るく元気な、あの
のまんまだろうか?

 ――、、早く会いたい!


 制限速度なんて軽く超えてしまっている悪魔のカマロは、真っ暗闇を切り裂くように走り抜けていった。


***


「バンブルビー、ただいま帰還しましたッ」

 滑り込むように基地内へ入ってきたバンブルビーを迎え入れたのは、他でもない司令官だった。バンブルビーは大急ぎで トランスフォームして、びしっと敬礼をひとつ。オプティマスもフェイスマスクを愉快そうに動かしながら敬礼を返した。

「早かったな」

「い、いえ、ラチェットに急げって言われて」

 まさかがいるから急いできましたともいえず、バンブルビーはよそよそしく視線をさまよわせた。オプティマ スにしてみれば何から何までお見通しなのだが、かわいい部下のプライドをわざわざ傷つけることもないかと黙っていた。
すると、後ろから件の少女を引き連れたラチェットがにやにやと笑いながら入ってきた。

「ふむ。バンブルビー、新記録じゃないか?調子は良さそ…」

「バンブルビー!!」

 ラチェットの言葉を遮るようにしてが声を上げる。そして走り出したかと思うと、硬直して突っ立っているバ ンブルビーに思い切り抱きついた。押し倒されそうになりながらもバンブルビーはなんとか彼女を受け止める。抱きしめた 身体には細かい傷がそこらじゅうにあった。やっぱり長い間辛い思いをしてきたんだなとバンブルビーはせり上がってくる 思いをなんとか押しとどめ、ぎゅうと自分を締め付ける彼女の腕をゆっくりと解いた。

「、元気だった?」

「うん!バンブルビー、あなたも」

 バンブルビーの首に腕を回したままのはじっと彼のアイセンサーを見つめた。彼女に見つめられることに慣れ てはいるけど、やっぱり気恥ずかしい。お返しに見つめ返してやる!といつも思うのだけど、可愛い彼女の顔を見ていると そんなことはどうでも良くなって、結局我慢しきれずにぎゅっと腕の中に閉じ込めてしまうのだった。

「うん。このとおりぴんぴんさ!」

 の腰を持ち上げて、くるくるとバンブルビーは回って見せた。が嬉しそうに声を上げて笑う。ラチ ェットのやれやれといった仕草が目に入った。オプティマスはこの二人の無邪気さに目を細めて笑っている。きっとここに アイアンハイドがいれば、見てられんと一蹴して居なくなってしまうだろう。
 それくらい、二人は舞い上がっていた。

「バンブルビー、たくさん、たくさんお話したいことがあるよ」

「おいらもだよ」

 そっとを下ろして、バンブルビーは彼女の手を握りなおす。見れば見るほど懐かしくて、あの時と変わってい ないなとか、少し装甲の色が変わったかなとか、細かいところにばかり目が行ってしまう。もうしばらくは離れることなく 一緒にいられるはずなのだ。だから、もっと落ち着いて話がしたい。

「…バンブルビー、」

「はいっ」

 二人は声を揃えて司令官に向き直った。腕を組んで楽しそうに笑うオプティマスは、小さな部下たちに「気が済むまでお 喋りすること」と伝えて、すっと基地の中を指差した。疑問符を飛ばして指先を見つめる二人に、ラチェットが助け舟を出す。

「の部屋で好きなだけ喋って来い」

「あ、ありがとう!」

「ありがとうございます!オプティマス!」

「礼には及ばんさ……ああ、それとバンブルビー。サムにはちゃんと連絡しておくように」

「あ」

 そういえば勝手に出てきてしまったな、とバンブルビーは大好きな少年のことを思い出しながら、通信機をいじった。


***


 ぼんやりとした明かりの灯る部屋には、の予備パーツやら銃弾やらがそこかしこに広げられていた。そういえ ば彼女は片付けが苦手だったっけ。がさがさと荷物をどけて、鋼鉄のベッドへバンブルビーを案内したは少し恥 ずかしそうに「まだ来たばっかりだから」と言い訳した。

「”いつもどおりの””変わらないあなた”」

 ラジオでそう告げると、はくすくす笑いながらぐいと彼の腕を引っ張った。はずみでベッドが大きく軋む。バ ンブルビーはと一緒に仰向けにベッドに倒れこんだ。

「声はもう治ってるの?」

「うん。一応ね。ただラジオで喋るのも面白くってさ」

「そう」

 はバンブルビーの横顔を見つめながら、ちょいちょいと喉を突く。

「でも、今はアナタが喋って」

「え?」

 ごろりと仰向けになっていたバンブルビーは、いつのまにか自分の胸の上に乗っかったを見て意味をなさない 電子音を発した。スキンシップの多い彼女がこうして自分にじゃれ付いてくるのは珍しいことではないが、今日は妙に声が 真剣だった。確かに、久方ぶりに会ったのだから普段どおりとは行かないだろうけど。

「ずっとずっと聞きたかったんだもん。メモリーに残ってる声だけじゃ足りないの」

 ね、とは甘えるように顔をくっつけて来た。地球で言う”ネコ”のような仕草に、バンブルビーは思わず彼女 の頭やら背中を撫でた。が嬉しそうにぴったりと身体を寄せてくる。

「うん。わかった。キミといるときはラジオは使わない」

「バンブルビー」

「なあに」

 よしよしとの頭を撫でながら、バンブルビーは首を持ち上げて彼女の顔を見た。大きなアイセンサーがいたず らっぽく笑っているように見える。

「あ、いま何かワルいこと考えてる」

「そんなことないよ」

 はくすくす笑いながら彼の胸の上で頬杖を付いている。彼女に見下げられるのは悪い気分では無いけれど、ど んな些細なことでも隠し事は気に食わない。むむっと唸り、バンブルビーは彼女の腰を捕まえようと腕を伸ばした。

「ビー」

 おもむろに名を呼ばれ、バンブルビーは伸ばしていた腕をさっと下ろした。何事かと彼女のアイセンサーを見つめている とその二つの光はみるみる内に近づいてきて、しまいにはその中に写る自分の姿を見ることになった。
 かちん、と無機質な音が響いたかと思うと、自分たちの身体の中では柔らかい部類に入る器官――人間で言うところの舌
――が硬く閉ざされた口元を割って入って来た。正確には口元のロックを解除して唇を露わにしたのは、彼女ではなく自分 だけれども。
 アイセンサーを明滅させて、バンブルビーはびーだのぴこぴこだの、意味を成す音にならなかった半端な電子音を発声器 官から漏らした。は大きなアイセンサーを少しだけ動かして、そんな彼を楽しんでいるような素振りを見せる。

 してやられた、とバンブルビーは嬉しいような悔しいような、でも幸せいっぱいの気持ちをぶつけるように、 の腰を捕まえて体勢を逆転させる。突然のことなのにさして驚いた様子もなく、彼女はまだくすくすと笑っている。こいつめ。

「ビー」

「もうその手は喰わないよ」

「ちがうよ。そうじゃないの」

 押し倒された格好ではバンブルビーの頬に手を伸ばし、何度も何度も触れた。

「すき」

「どうしたの?急に」

 どきどきばくばくスパークが震える。おいらだって好きだよ、と返すことができれば良かったんだけど。

「もう離れたくない」

 首の後ろに手を回されて、バンブルビーは自分との額をくっ付けた。こみ上げてくる愛しさをうまく表現する言 葉が見つからない。

「もうずっと一緒だよ」

「うん」

「ずっとね」

「うん」

「イヤだっていっても離れないからね」

「いやなんて言わないよ」

 ホントかな?とふざけて問えば、はバンブルビーの頭をぐいと引っ張ってもう一度口付けた。

「”あなたを愛さずには居られないの””僕の愛しい人”」

 の発声器官から飛び出したフレーズに、バンブルビーはびっくりしてアイセンサーを瞬かせる。

「ず、ずるい!おいらにはだめって言ったのに!」

 よっぽどびっくりしたのだろう、雑音のように言葉にまとわり付く電子音が響く。は笑いながら何度もごめんな
さいと謝った。

「だめ!許さないもんね!」

 ぷいっと顔をそむけたバンブルビーの頬にはそっと口付け、「機嫌を直して」と囁いた。

「ね、バンブルビー」

 あやすような彼女の声にバンブルビーはゆっくりと顔を元の位置に戻す。

「ま、まだだよ」

「なにが?」

「まだ許してないよ」

「ふふ、じゃあどうすれば許してくれるの?」

 はバンブルビーが意地を張っているだけだと分かっていたし、バンブルビーだって自覚している。だけど、やら れっぱなしはカッコ悪い。

「キスして」

「あら、また?」

「ちゃんとするの」

 バンブルビーは半ば自棄になりながら、アイセンサーをぴったりと閉じた。おいらは何もしません、と口を噤んでしまった バンブルビーをは苦笑しながら引き寄せた。

「わかった。ちゃんとするね」

 くすくす笑う声はまだ続く。はぎゅっと腕を彼の首に巻きつけて、身体を反らせる様にバンブルビーに口付けた。

「”もう最高!!”」

 盛大なボリュームで流されたラブソングに、がびっくりしてバンブルビーを突き放したのは、また別のお話。  





***後書き***

匿名さまからのリクエストで、実写バンブルビーでした!いかがでしたでしょうか? けっこう甘く書いたつもりなんですが、ただのバカップルに/(^o^)\何回ちゅっちゅしてんだ^^^ いえ、たまにはこんな可愛いのも楽しいですね!
それと、ビーが思ったよりコドモっぽくなってしまいました。やっぱり初代のイメージが強いからですかね^^;一人称もオイラにしちゃったし… 実写はもっとオトナだよな〜と思ったんですが、そーいえばリベンジでは一作目よりお子様でしたね。初代にちょっと近い感じ^^

なにはともあれ、ご笑納いただければ幸いです!